fc2ブログ

英国医学研究留学記

再びPBL開始

R0018238.jpg
GRD2 ISO80 f5.6 1/500s
ここのところ、雨または曇りで気温も5℃前後と、すっきりしない天気が続いていますが、気候としては典型的なロンドンの冬の気候と思います。
週末は気温がやや低めで推移するようです。

ブログから遠ざかっている間に、またしてもロシアでテロが。
英国人が巻き込まれたとあって、こちらでの報道は大きな扱いになっています。

今週からPBL(Problem Based Learning)が始まりました。
このモデュールのチューターをするにあたり、専門分野以外の事は記憶があやふやなモノも多いし、昔に勉強した事が(小児科以外の知識は、学生時代から止まっているモノが多いので)もはや古すぎたりするので、もう一度キチンとおさらいして思い出す、もしくは最新の知識にキャッチアップしてから医学部の学生さんに接したいと思っているので、どうしてもセッションの前日には下準備が必要になりますし、セッションが終わるとその日の学生さんの示したパフォーマンスを評価しないといけないので、なかなか時間がとられます。しかも、僕が研究しているキャンパスからは地下鉄で20分ほどかかるキャンパスまで行かないといけません。そんな訳で、PBL以外にもいろいろとあって、このモデュールが終了する2月の第2週まではちょっとブログも距離を置かざるを得ません。

ここでPBLについて簡単に説明しておきます。
医学部の教育の形態は、えいやっと分けると、Lecture Based LearningとPBLに分けることが出来ます。
Lecture Based Learningは従来型の講義を中心とした教育で、日本の医学部(僕たちが受けてきた教育)で普通に行われているのはこの形態です。教官側からの一方通行的なものになるのが普通です(ここで、いやうちの大学はちゃんと双方向になっているぞと言った反論がある方もおられるかもしれませんが、一般論として聞いてください)。教える側としては、講義の準備と講義そのものに時間がとられるのですが、まあ一方的に伝えたい事をしゃべれば良い訳で、見ようによってはある意味気楽です。

PBLは、大学側が用意した医学的背景を持つシナリオをもとに、まずは予備知識無しで数名の学生のグループでで討論し、それに基づいて学生達が自ら学習すべきターゲット(話題)を設定し各自がそれを家で勉強します。そして数日後、その勉強した事を元に再びグループで集まり、知識の確認をする作業をする訳です。まだ日本で導入されている大学はあまり多くありませんが、欧米の医学部ではある意味この形態が流行で、講義と連動して同等の重みが置かれています。

PBLを行うにあたって、学生の中から記録係と議事進行をする司会を一人ずつ決め、以下の7つのステップを踏む必要があります。
ステップ1;言葉の定義
知らない単語、もしくは定義があやふやで自信が無い言葉を抜き出す。その場で知っている者が説明できればよし、出来なければ学習すべき項目に組み入れる。
ステップ2;問題点の設定
シナリオの中で問題とすべき項目を列挙する。
ステップ3;ブレイン・ストーミング
現在持っている知識で、上記Step 2で挙げた問題点に関して、あーでも無いこーでも無いとその問題点同士の関連性とか合理的な説明をしようと意見を出し合う。
ステップ4;問題点同士の関連性と、問題点の合理的な説明に関する討論
上記のブレイン・ストーミングで出し合ったストーリーや仮説で、シナリオ自体が合理的に説明できるかどうか、皆で議論しながら検証をする。
ステップ5;学習項目の設定
議論してきた事を踏まえて、数日かけて何を各人が次のセッションまでに勉強してくるのか、勉強してくるトピックスを設定する。
ステップ6;自習
そのまんまです。今僕が持っているモデュールでは、3日間与えられます。
ステップ7;知見の共有/フィードバック
日を改めて、自習してきた内容を元に、前回のセッションで設定した学習項目に対して勉強してきた知識を皆で共有する。僕のいる医学部では、このフィードバック・セッションの議事進行はチューターつまり僕が行っています。このモデュールの狙いは、学生に自ら問題点をえぐり出し、推論し、チームで議論し、自ら調査をする、かつ医学的に必要な知識を身につけてもらう、こういう訓練を求めているのです。

今日のセッションでは空腹時に胃痛が増強するピロリ菌陽性の典型的な十二指腸潰瘍の症例を下敷きにしたシナリオなのですが、このシナリオで医学部側の狙いとしては、
1.胃潰瘍および十二指腸潰瘍の発生機序の理解。特にピロリ菌に関連して。
2.胃および十二指腸の肉眼解剖と組織学的解剖の確認。
3.潰瘍とは何か?どうして正常な消化管は自己消化が生じないのか?胃酸は何をしているのか?の理解。
4.胃酸と消化酵素(ペプシノーゲン)分泌機構の把握。
5.胃潰瘍および十二指腸潰瘍の典型的な症状とクリニカル・コースの把握。
6.潰瘍に対するリスク・ファクターは何かの把握。
7.検査および診断、治療戦略(使う薬の薬理学的作用も含む)の理解。
を学生にしてもらいたい訳で、学生が「自主的に」これらの項目を学習のターゲットとして上記ステップ5ですべて網羅するように、チューターは議論の最中にいろいろと示唆を与えたり、あらぬ方向へ行きそうになったら軌道修正してやります。
フィードバックのセッションであるステップ7では、僕が司会をし、足りない事に対して補いながら、学生がきちんと大事な事に対して理解が出来るように配慮します。
シナリオは結構うまく書かれていて、これを下敷きに勉強してもらうと、今日の場合は上部消化管に関する「肉眼解剖学」「組織学」「生理学」「薬理学」「臨床診断学」「内科学」が網羅できてしまう訳です。

今回の僕の担当のグループは、医学部の1年生で総勢が7人。火曜日と金曜日の午前中に各2時間のセッションを行っています。
講義と比べると、たくさんのチューターが必要になりますし、各モデュール(僕は今年は「代謝/栄養/内分泌」というモデュールの担当ですが、ほかにも「発達(これは発生学、産科学と新生児学がチャンポン)」「呼吸・循環」などと言ったモデュールがいくつもある)各々にチューーターが別個に準備されている訳です。正直、これだけのマン・パワーを投入しただけの教育成果が上がっているのかはよくわかりませんが、もともと医者じゃない研究者もチューターとして狩り出されているので、僕自身が受け持ったグループの学生さんには、せっかく(元)医師が担当している訳ですから、医師としての視点から何が大事かをうまく伝えたいですし、なおかつ僕自身の経験を踏まえて各セッションごとに学生さんが興味を持ってもらえるようにしたいと、正直余り上手ではない英語で悪戦苦闘しています。

最初は、研究活動に専念したいのに......なんて思ったりもしましたが、考え方を変えると毎週4時間、僕は「無料の英会話コース」を取っているようなモノですし、何よりも未来の医師達を見ると自分の学生時代が思い出されて、案外楽しんでやっています。

テーマ:雑記 - ジャンル:日記

  1. 2011/01/28(金) 21:21:09|
  2. 医学
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
<<Asian Cup | ホーム | 春の気配>>

コメント

おはようございます

学生指導、本当に大変ですね。教えるには下調べが必要と思うDr. Kenを師に持つ学生は幸せですね。何の勉強もせず10年一日の如く同じことをやり続ける人に教えられたことが何回もあります :D

私の義理の両親は先週エジプトに旅行にいったのですが、ついたとたんに街が騒然となってしまいました。でも観光地はriotoとは無縁のようで、明日帰国の予定です。
  1. 2011/01/29(土) 16:35:28 |
  2. URL |
  3. surgeon24hrs #xJW3mR9c
  4. [ 編集]

Re: おはようございます

surgeon24hrsさん
先生、書き込みありがとうございます。
忙しくなってしまって、自分の方のアップとコメントへの返事が精一杯になってしまって、皆さんのブログからちょっとまた足が遠のいてしまいました。

学生さんの立場に立ってみると、何の知識も無い妖しげな英語しかしゃべらないものがスーパーバイズしにきたら、正直言って、時間の無駄と思うのではないかと思うのですよね。英語は妖しいけれども、僕がチューターをしているセッションに出れば学生達になにか得るものがあると思ってもらえたら、実際には医師としての活動をしていなくてもいま生活しているこの国での医療に貢献出来るのではないか、そう考えています。僕自身も病気になれば彼らのお世話になる訳ですから、良い医者になって欲しいと思うのです。

エジプトですか、大変なことになっていますが、観光地は比較的落ち着いているんですね。報道では「インプレッシブ」な所しか流しませんから、ロンドンで学生がデモがエスカレーロして暴れている映像が日本で流されると、何人から「大丈夫か?」との問い合わせのメールを頂きました。うちの大学も含め、デモの学生がいるところ以外ではいたって平穏で普通の日常だったんですけどね。

それにしてもチュニジアと言い、Facebookなどのネットを介してこういう運動が拡大すること自体、時代の変化と言うものを感じざるを得ない事件です。
  1. 2011/01/29(土) 22:54:35 |
  2. URL |
  3. Dr Ken #-
  4. [ 編集]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://ukresearchlife.blog17.fc2.com/tb.php/678-9ba7912b
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

Dr Ken

Author:Dr Ken
元小児科医。ある日より、医師としてのキャリアではなく、研究者としてのキャリア・パスを志す。2007年の8月よりロンドンにある某大学医学部に講師として赴任。なかなか上達しない英語が、少し歯がゆい。万年筆と銀塩フィルムカメラが好き。縁があってやって来たこの国での貴重な体験や日々感じた事を、写真と一緒に記事にしています。

当ブログの写真および記事とは直接関係がないと判断したコメントやトラックバックは、申し訳ありませんが削除させていただきます。ご了承ください。

カレンダー

01 | 2024/02 | 03
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 - -

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

最新トラックバック

カテゴリ

未分類 (337)
GRD2 (171)
日英の相違 (21)
英国 (282)
研究 (20)
映画 (4)
万年筆 (1)
医学 (10)
旅 (83)
科学技術政策 (2)
日本 (17)
Rolleiflex (25)
Leica (21)
Contax T2 (16)
Contax T3 (4)

FC2カウンター

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード