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英国医学研究留学記

在英日本人研究者達

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今日は時々晴れ間が覗きましたが、午後からは時折激しく降る雨模様の一日でした。
気温は比較的高かった様に思います。

昨晩は、学術振興機構のロンドン研究連絡センター が主催する、在英日本人研究者会議に出席して来ました。
この会議は、英国の地で第一線で研究している研究者達、それも研究室の主催者からポスドク、英国で大学院に進学した者まで、幅広い人材をあつめて、以下は僕個人の受けた感想なのですが、(1)英国の研究環境の情報を交換し、日本と比較した上で良い部分・悪い部分を見極めて、日本における科学行政に反映させる、(2)英国において活躍中の日本人同士の相互交流を図り、お互いが一戦で活躍出来るために情報の交換の場を設ける、と言うのが主要な目的と感じられました。

会議の中で、University College London(世界の大学ランキングでは常に一桁の超一流大学。ちなみに東京大学は近年20位以内に入れない状態が続いています)で生命科学領域の教授(すげ~!)をされているO先生から、近年の日本人研究者の海外指向の傾向についての公演があり、ここ10年程、若者は海外留学したがらずに内向き思考で、海外で研鑽を積もうと考える人はほとんどいないらしい、という統計的データに皆さん、危機感を募らせました。というのも、研究の中身自体は、日本の一流ラボと欧米とで大きな差は無いと僕は思いますが、(1)どうしても英語の論文を書き、英語でプレゼンをしないと世界と対峙できないのに、日本にいたらいつまでたってもこの技術が磨かれず、結果的に世界と戦える研究者にはなり得ない、(2)勝つためには、敵の生活・文化などの背景も知ることは有益である、(3)交渉ごとの技術の習得(日本独特の慣習ややり方は、世界標準ではない)、(4)直接対面で対話するからこそ、広い研究上のネットワークを築く事が出来、お互いに助け合える間柄になれる、など世界と対等にやって行くためにやはり1年以上の海外滞在における研究活動から得られる物は、計り知れないくらい大きいと感じるからです。逆に、僕も含め、今僕の周囲にいる人たちの様に、海外で道が開ければ、別に活動の場は日本に限るなんて事は考えていない人たちは、絶滅危惧種なのかもしれません。

確かに、海外に出る事はとても大きく環境を変えることになるので、研究者本人にとってもその家族にとっても、大きな痛みを伴う事は否めませんし、我が家もとても苦労しました(今でも苦労の連続です)。しかしながら、研究者としてやって行くからには、常に変革は要求される事なので、これを乗り越えられない人は、ハナから世界と対等に渡り歩く事は無理と思われます。となると、若手がそういう状況と言う事は、日本の科学技術にとって、あまり未来は明るくない気がします。

一方で、現在日本で行われている「仕分け」において、科学研究ヘの予算が大きく削られる事になりそうだと言う現政権の行っている方針には、クビをかしげる意見が在英の日本人研究者達の間には多かったと思います(まあ、自民党政権下の科学技術行政にも、諸手を上げて賛成とは言いませんが)。蛇足ですが、日本の研究予算が大きく削減されようとも、英国にいる我々には何の影響もありません。なぜなら、日本の研究予算は、海外にいる日本人研究者の研究資金には基本的に一円たりとも使用されていないからです(国内の研究に限って支給されている、まあ、当たり前の事かもしれませんが)。純粋に、僕たちは日本の科学技術の行く末を心配している訳です。そもそも、基礎科学研究は、先進国では「国家的重要事項の戦略」であって、科学研究に大きくファンドして行く事は、いわば「国防」なのですが、この観点が今の日本の政府・政治家・多くの官僚、そして国民の中に希薄な気がします。もっとも、これは人のせいばかりには出来ない側面も大きくて、科学者自身が自ら自分たちの仕事の社会的意義をこれまで積極的にわかりやすい言葉で発信してこなかった事も問題で自業自得との考え方も出来ます。研究費を削るのはけしからんからもっとよこせと言った所で、逆に反感を買うだけでしょう。好転させるためには、我々研究屋が科学の重要性をもっと一般に理解してもらうための努力をして行かないと、いけないと思います。自分の親が、研究している自分を見て、ある意味「道楽」を仕事にして生活していると考えるに近い発想しか出来ないようでは、さもありなんでしょう(つねに、「いつまでもふらふらせずに、早く医者に戻れ」といったニュアンスが、そうはっきりとは言わないまでも、自分の親からも感じられるのです)。

国民全体が、研究を「道楽」としか考えることが出来ずに、これに多くの血税を費やすのはけしからん、もっと短期的に目に見えて効果のある物にファンドせよと言う意見が多数ならば、それも致し方ない事かもしれません。しかしながら、一部の生命科学領域では日本は既に中国には太刀打ちできない状況に陥りつつありますし、シンガポールにも国策としてスタンフォード大学(米国の超一流大学)の分校が出来て世界中から名のある研究者が集まりつつありますから、今の状況のままだと、おそらく早晩、生命科学では欧米の先進国はおろか、国策として断固として科学技術研究を推進している中国、台湾、インド、シンガポールといったアジアの国々にも全く太刀打ちできなくなるでしょう。今の日本の「科学技術は世界に誇れる」状況は、国家的な戦略で維持する努力を怠ると、もうそんなに長続きしないかもしれないのです。資源の無い科学技術立国がその地位を失った結果は、寂しい物になると僕は思うのです。

テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

  1. 2009/11/21(土) 23:25:01|
  2. 研究
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  4. | コメント:5
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コメント

こんばんわ~

カナダは赤いカエデで紅葉のイメージですけど...e-133
イギリスはあんまり紅葉しないんでしょうか
雨量と日照時間と寒暖の差が色づきのポイントなので...
晴れが少ないと赤が鮮やかにならないのかも
っていうか...そもそもこれカエデじゃないんですねv-35
  1. 2009/11/22(日) 11:35:30 |
  2. URL |
  3. yo #vYXebdWU
  4. [ 編集]

英国の紅葉情況はどんなものなんでしょう。

仕訳事業、賛否いろいろあるでしょうが、
公開して正解。
官僚に時間をあたえたら、ダラダラするばかり。
この国も変わらなアカン。
  1. 2009/11/22(日) 20:12:38 |
  2. URL |
  3. tak+ #-
  4. [ 編集]

yoさん
赤く色ずくモノが少ないですね。黄色やオレンジがほとんどです。聞いたところによると、紅葉には日照が良いことと寒暖の差が激しい事が条件と聞きました。英国はその点では不利ですよね(年中の寒暖の差がとても小さくて、曇天が多く日照が少ない)。

tak+さん
おっしゃる通りですね。科学研究に関して言えば、もちろん山中教授のような一流も数多くいらっしゃいますが、日本国内の大多数の研究者は日本語に護られて日本人同士としか競争していない「鎖国」に近い状況でしたから、逆に構造的改革をして、世界水準の質の高い研究を日本発で世界に発信できるような環境を整える良い機会と捉えたいです。
しかしながら、今の日本の科学行政が(今報道されている民主党のやっていることも含めて)技術立国としての明るい日本の未来を描く材料が全く見いだせない事も事実なんですね。別に自分の研究者としての保身でそう言っているのでは無いのです(今の僕には、日本の科学研究予算が減っても、自身の研究活動には何の関係もないからです)。
  1. 2009/11/22(日) 22:18:56 |
  2. URL |
  3. Dr Ken #HfMzn2gY
  4. [ 編集]

英国は紅葉がキレイでしょうか。
今年の京都は東側が良くなかったようです。
西の嵐山あだし野辺りはまだ見られる状態だったそうですよ^^
私、難しい事が分からないのですが、天下りとかに使われている予算は廃止されて良いと思います。
ただ科学や文化に使われるものに対しては十分な審議がいるように思っています。
会議が公開されるのは良いのですが、ニュースではその中の一部しか映されていないので、
誤解が生まれそうで気になっています。
子育て支援もどうなんでしょう。。そのお金で海外旅行行けるって喜ばれている方や車買えるって仰る人もいらしたり。。。。一部の方だとは思うのですが、引っかかっています。使い方までは決められないですからねぇ。。。
それとこのお話とは関係ないのですが、先日テレビで単孔式腹腔鏡手術のことやっていて、分からんなりにとても興味深く拝見しました^^;
  1. 2009/11/23(月) 13:43:44 |
  2. URL |
  3. kaotti1 #Oob10Koc
  4. [ 編集]

kaotti1さん
英国の紅葉は、日本程の鮮やかさはありませんが、欧州らしい景色とは言えそうです。
京都の景色は、風情があってアジが有りますね。日本は街の景色が変化しすぎで、一方欧州は10年20年と変わらぬままですが、京都と奈良は世界に誇れる景観と思います。

仕分け作業も含め、今まで非公開だった場を公開にしたことは大きく評価したいと思います。
そうはいっても、日本の政治も国民も、「この不景気に何が科学だ」という風潮なのは悲し過ぎます。日本以外の他の先進国も新興国も、「不景気だからこそ、現状打破のために科学には最大限投資する」という姿勢とあまりに差が大きいです。日本の将来を思うと(僕たち研究者の将来ではありませんよ。日本がそのつもりならば海外で仕事をするまでです)、暗澹たる思いに駆られます。

医学を取り巻く環境も日本は厳しいのですよ。日本発の新技術は近年、ほとんど見かけなくなりました(と言いきると怒られそうですが)。日本では治療法が確立していない病気などに対するいわゆる「実験的医療」が馴染まない土壌です(かならず人体実験とおもしろおかしくかき立てるマスコミも登場する)。和田移植後、トラウマになって移植医療が進展しなかった事を見ても明らかです。なんとかしてあげたいと言う信念を持って全く新しい治療法を試みようと思うと、「海外に出て行わないと試せない」のですよ。これも僕は大きく国益を損なっていると思います(いわゆる本当の興味本位の人体実験にならないような、ルールは絶対に必要ですけどね。731部隊とか、遠藤周作の小説「海と毒薬」の様なことにならない様に)。
  1. 2009/11/23(月) 21:16:40 |
  2. URL |
  3. Dr Ken #HfMzn2gY
  4. [ 編集]

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Dr Ken

Author:Dr Ken
元小児科医。ある日より、医師としてのキャリアではなく、研究者としてのキャリア・パスを志す。2007年の8月よりロンドンにある某大学医学部に講師として赴任。なかなか上達しない英語が、少し歯がゆい。万年筆と銀塩フィルムカメラが好き。縁があってやって来たこの国での貴重な体験や日々感じた事を、写真と一緒に記事にしています。

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