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英国医学研究留学記

Japan's tipping point

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今日は久々に朝から青空が広がっていました。
出勤時に、ちょうど地下鉄が信号機の不具合(これが遅れが出たときの頻出の理由。ひょっとするとこう言えば皆が文句言わないとでも思っているのだろうか?)で運行が乱れていて、いつも1時間で到着するところを2時間かかった上に、どこへ行っても列車に乗れずにあふれかえった人でごった返していて、ついてなかったです。

本日付けのNatureに、科学技術大国の日本は、昨今の経済危機と国際的な競争が激しさを増す中、現状のままだと今の地位から転落するとのエディターのコメントが掲載されていました。

Nature 460, 151 (9 July 2009) | doi:10.1038/460151a; Published online 8 July 2009
Japan's tipping point
With changing demographics, a tight economy and increasing competition, Japan could slide from the top ranks of research nations. Drastic action is needed.

文科省が発行した白書に基づいた記事な訳ですが、多少僕の解釈をふまえた上で要約すると、

1)若者の理系離れが進んでいる。
←これは最近新聞でも良く云われていますね。若者が理科がきらいなら、若い小学校の先生も理科が嫌いだったであろうから、理科が嫌いな人に教わった子供たちが理科好きになるとは思えませんね。しかも、博士取得者が社会に出て魅力的な待遇を受けれるようには全く思えないです、今の日本は。「末は博士か大臣か」なんて言葉が有りましたが、「大臣」の圧勝じゃないですか?旨味が有るから政治家は世襲しているのでしょう?

2)大学研究者の総数は増えているにもかかわらず、若手研究者が減り続けている。
←総数が増えているとは知らんかった。でも、この記事に有るように、日本ではポジションが無くて、僕も将来に日本で研究職を得られるのかどうか、全く解りません(お前に能力が足りないからだと言われてしまえば、それまでですが)。ポジションに流動性が無いからなんでしょうね。誤解を恐れずに言うならば、いったん教授になってしまえば、問題でもこさない限りそのまま、言い換えると、教育もしくは研究の上で教授らしい仕事をしていなくても、その地位は失われることは無い訳です。あっ、別に今ポジションを得ている人が皆無能だと言っている訳ではないですよ。僕のお師匠なんかはまねしようにもまねできないすごい方でしたから。
日本で若手にチャンスは少ないです。日本では僕自身もチャンスが無くて、閉塞感が漂っていましたから。もちろん、自分自身のスキルを高めるために海外に出たいと言う希望は有ったのですが、一方では日本で感じていた閉塞感を打破したいと言うのも、海外へ職を求めたもう一つの理由です。

3)博士課程学生および大学研究者の中での外国人の占める割合の低さ。
←そりゃそうだ。だって、外国人学生を受け入れる体制(社会も含めて)は、英国に於けるものと比べると全く充実していないです。これは移民が前提の国と、そうじゃない国の違いであって、仕方ないのかもしれませんが、優秀な頭脳に日本に来てもらうと言う点ではとても損をしています。何より「英語」で科研費を請求できるようになったのはやっと昨年からです。つまり、外国人研究者は、いくら優秀でも日本で研究費を獲得する方法が無かった訳です。日本は、欧米と違い、文科省や厚生省と言った省庁がらみの研究費以外(つまり民間)は、額が少な過ぎて研究を推進するには不十分過ぎます。心情的には、「外人に負けんな」「日本人魂で欧米に対抗しよう!」と言う気持ちになるのも理解は出来ますが、欧州と米国の間は研究者の行き来が盛んで、米国で成果を上げている欧州人、欧州で成果を上げている米国人は、実にかなりの数に登るのじゃないかと思うと、日本人だけでがんばろうとしたところでマーケットが狭すぎる気がするのです。オリンピックと違うので、研究成果がその成果を上げた国にまずはクレジットが与えられるとするならば、純血日本人だけでがんばろうと言うのは損な話だと思います。

4)海外留学者および希望者の激減。
←驚くべき事に、最近の若者(20台から30台前半)は全く内向き思考で、出来れば海外など行かずに国内にポジションを得たいと言う人が多いそうです。医師にもその傾向は顕著で、一昔前は、卒後数年以内の医師に留学の希望を尋ねると半数以上が行きたいとの意見だったのが、今は一割もいないとか。確かに、日本では学べない研究手法とか医療技術と言ったものはほとんど無いに等しいのですが、論文の採択や学会発表など、成果を広く公表し、科学技術においてイニシアティブを発揮しようとすると、どうしても「英語」および「英語圏の社会の仕組み」に従わざるを得ません。コミュニケーション・ツールとしての英語の重要性は言うに及びません。実際に、英語で日本にいたときに一番のコンプレックスは「会話能力」で、いまでも全く向上を見ませんが、それ以上に渡英してこれはいかんと感じているのは「writing」の能力の方です。研究費の申請でいかに判りやすく、かつ自身のオリジナリティやインパクトを適切な表現と文字数で表現するかは、論文を書く際にも十二分に役立つはずです。一方で、海外に出ることによって、欧米の人がどういう立ち居振る舞いをし、どう考え、またどういう社会の仕組みで成り立っているのかを体験する(つまり「敵」を知る)事で、同じ仕事を成し遂げた場合により高く自分の仕事を売り込んだりなど、より国際的な舞台の中でうまく立ち居振る舞えるのではないかと思うのですが。

5) ポストを有する女性研究者の数の少なさ。
←優秀な女性は一杯いますが、日本の仕組みでは難しいですね。海外では子育てしながら研究職を全うしている優秀な方はうじゃうじゃいます。どこへ行っても、男女比は半々に近いのですよ、教授職でも。これは日本の伝統的な社会の風潮と仕組み自体が問題なのかな。現状では、優秀な女性研究者は、さっさと海外に出た方が良いかもしれません。

などを問題点としてあげています。
それに対して、いくつか評価すべき対策は施されつつ有るものの、規模も小さく効果は短期的なものしか見込めないものが多くて、結局もっと大胆な改革をしなければ日本の科学は国際社会で現在のポジションの維持は難しいと締めくくっています。う~ん、悔しいですね~、外国のメディアにこうもずばっと言われてしまうなんて。しかしながら、この記事には僕は共感してしまうのです。

それでは、どうすれば良いのか?。能力があれば(年齢・性別・出自、つまり誰の弟子か・国籍に関係なく)誰でも前に出れるようにフェアにチャンスが与えられる仕組みになること、博士号を有し且つ海外での研究経験の有るものには何らかのクレジットが有るようにすること、優秀な外国人も日本で研究費をとって研究できる環境にする(その代わり成果は日本の税金で出されたものなので日本にプライオリティがある)、などでしょうか。柳田先生がいつもブログでおっしゃられている事にかなり重なります。と言うよりも、ぼくが影響を受けているからなんですが。

反論がおありの方ももちろんいらっしゃると思いますが、少なくとも今の仕組みでは、潜在的に大化けするかもしれない人が能力を開花する事無く埋もれていく可能性がかなり高いことだけは確かだと思います(女性は特に。でないと、Natureにこんな記事はでませんよね)。少なくとも英国では、僕が今体験しているように「英国内でまだ実績の無い」「まだ住み始めて間もない」「外国人」にポジション(大学の職員としての研究職)を与えて、且つ、ひとまず向こう3年だけですが個人が推進するには十分な(学内の私的な資金源からではなく、公的な)研究費がつく、と言うような事が実際に起こる訳で、日本ではまずあり得ない事だと思うのです。

テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

  1. 2009/07/09(木) 18:49:14|
  2. 日英の相違
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

それぞれの問題の原因は、私はやはり広い意味で教育だと痛感します。じゃあ、どう教育を変えればいいのかですが、学校や家庭での教育は大人の価値観の反映であって、それは一朝一夕にできるものではなく、長期にわたって我々の親や我々自身、後輩たちが少しづつ選択してきた結果ですから、なかなかやっかいですね。

まずは政治を変えることではないでしょうか。おそらく12日の都議会選挙も近々の総選挙も、自民党は大敗すると思います。良くも悪くも自民党の長期政権がいまの日本のシステム、ひいては価値観を作り上げたわけで、それで行き詰まったんだから、一度、政権を変えてみようとやっと選挙民が思い始めているように感じます。究極の選択なのですが。

民主党になっても変わらないというシニカルなひとも多いですが、民主党がすべて解決してくれるなんてことは誰も思ってはいないはずで、ともかく今までとは違ったやり方をやってみることに意義があるのだと思います。

リーマンショックの後、震源地の米国民よりも、日本人の方が先行きに大きな不安を感じていると何かのアンケートで読みました。国民性の違いもあるでしょうが、昨今の不景気さ、治安の急速な悪化、福祉への不満などなど、我慢強いと言われた日本人もやっと「窮鼠猫を噛む」的な事になりつつあると思います。

まだまだ、日本は下降線をたどりそうですが、せめてなんとか上向きにしようという努力を民意で醸し出したいですね。幸せの形はいろいろあるのだから、パラダイムシフトすべきときだと思います。

長々とすみません。それにしても、英語は面倒くさいですね。最近は、いっそさっぱりわからないほうが楽だったなあ、などと少々投げやりになっています(苦笑) ドラえもんの翻訳コンニャクが欲しいです。
  1. 2009/07/11(土) 12:03:48 |
  2. URL |
  3. kk #z1uogJ6Q
  4. [ 編集]

kkさん
行き詰まってしまった場合は、何かを変えないと行けないと言うご意見には、全く同感です。
研究でも目の前に壁が有る場合は、同じことを繰り返しても全くだめで、打ち破るためにはいろいろと仕掛けないといけません。もちろん、そのためには「自分自身が変わる」事も含まれます。よく、恋愛の歌で変わらないままで良いなんて歌詞が有りますが、仕事でも何でも、個人が壁に当たった場合は変わらないと何も状況は変わらないんですよね。

いま、ロンドンは土曜日の夜ですが、都議選の投票、始まったようですね。もし、都議選と次の衆院選で大きな変化が有れば、田中角栄氏以来の政治手法(成長期には大きな役割をもちろん果たした訳ですが)から大きく脱却するチャンスかもしれません。

教育の問題は、日本に限らず、英国も問題はもちろんあります。特に二大政党で、政権が交代すると教育システムも大きな変革を遂げてしまう可能性があるので(現在の初等教育の仕組みは、サッチャー政権下で大きく改革されたものが下地になっているそうですが)、見方を変えると、その時代その時代の子供たちは、よくも悪くも大人たちに振り回されているんですよね。

国民は、今のままでは行けないんじゃないかと肌で強く感じますよね、今の日本では。治安の悪化、国際水準に照らした場合の基礎学力の低下、経済の手停滞.....。少しでも、日本がよい方向へと向かって欲しいなと願っています。
  1. 2009/07/11(土) 23:39:24 |
  2. URL |
  3. Dr Ken #HfMzn2gY
  4. [ 編集]

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Dr Ken

Author:Dr Ken
元小児科医。ある日より、医師としてのキャリアではなく、研究者としてのキャリア・パスを志す。2007年の8月よりロンドンにある某大学医学部に講師として赴任。なかなか上達しない英語が、少し歯がゆい。万年筆と銀塩フィルムカメラが好き。縁があってやって来たこの国での貴重な体験や日々感じた事を、写真と一緒に記事にしています。

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