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英国医学研究留学記

アカデミックの信用

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Canon EOS M EF-M18-55mm F3.5-5.6 IS STM Intelligence Auto (ISO100, 23mm, f8.0, 1/160) Hampstead Heath, London

春めいた気持ちのよい日が続いているロンドンです。

1月末にNature紙に発表されたSTAP細胞の論文が、衝撃を持って我々幹細胞生物学を生業としている研究者の前に姿を現し、急転直下のスキャンダラスな展開を見せています。英国でもBBC等が記事を載せる等、関心の高さがうかがえます。個人的には少し思うことがあるので、備忘録代わりも含めて書いておきたいと思います。

STAP細胞なるモノが実現可能なのかどうか、これは竹市先生がおっしゃる通り、「理研とは関係のない研究者が再現可能かどうか」にかかっていますので、すぐに結論は出ないでしょう。ガードン博士がカエルで世界初のクローン動物を作成してから、ほ乳類(羊やマウス)のクローンの成功までに実に40年の歳月がかかった事を踏まえても、科学的検証には時間がかかると思います。ただ、理研の当初の発表や、Nature紙に掲載されている論文を読むと、あたかも簡単に作れてしまうかのような錯覚を覚えてしまう書き方をわざとしているようにも見えますので、その辺りの「嘘はついていないけど本当の事を言っていない」ことと、「嘘をついている」事の境界はなかなか難しいかも知れません。いずれにせよ、「有るモノを有る」と証明するとのは違い、実現不可能なモノを「無いものは無い」と証明する方が遥かに難しいと云うのが科学の常ですので、STAP細胞が実現不可能な場合は特にその証明には時間が必要でしょう。個人的には、論文を見て興奮した一科学者として、有ってほしいし、生物の中で生じる様々な現象を見ると、決して起こりえない現象ではないのではないかと感じています。

科学的な視点でのSTAP細胞の確からしさとは別にして、論文の中身に掲載されているデータや文章そのものについては、ちょっとどころか大問題な点がたくさん有るようです。個人的には、公に発表されない学位論文と同じ図が公に発表される学術論文にも使われるのは科学のルールとしては大丈夫と思います(公になった発表済みの他の学術論文に使われた図やデータを使うのはアウトです)が、問題は学位論文ではまったく別の違う実験のデータであるはずのモノが、当該の実験のデータとしてNatureの論文に使われていた事でしょう。また、画像の切り貼りで違う回の実験データがあたかも同じ回の実験のデータのように見せかけてあったり、作為的なデータの加工と思わせてしまうような細工の痕と思われるモノが散見する等、個人的には感心しないものが多すぎ、これではデータを信用しろと言われても誰も信じないばかりか、ねつ造が有るのではと言われても仕方が有りません。それに加えて、他人が書いた文章がそのままと言って良い程コピペで文中に使われているのも論外です。引用附を用いて短い文章を引用するケースはあるにしても、たとえ出典を明らかにしてもあれだけの量の文章が他者のモノとほぼ同一と云うのは、これは欧米の常識で捉えると、はっきり言って「盗用」です。英国の大学では、例えば学生がたとえレポートといえども文章を「盗用」し公式なものとして提出した場合は、間違いなく退学です。それを防止し教育するために、僕が所属する医学部では、学生は自分のオリジナルの文章であるとの証明のために、大学が用意した文章盗用を検出するソフトウエアにかけ、そのフィルターをパスしたモノだけが提出を許可されるようになっています。筆頭著者の学位論文にも大量の盗用が見つかった事がニュースとして流れていますが、これは日本の高等教育機関(つまりは大学)にとっては、とても厳しい現実が立ちはだかっていると個人的には考えます。というのも、「日本の高等教育機関は、盗作/盗用を防止するための教育も手だても何もしていないどころか、堂々と盗作/盗用が含まれる論文に学位を授与している」という現実を世界中に示してしまったからです。どうも、筆頭著者は、「盗作/盗用」に対して罪の意識どころか悪い事と云う意識すら無く、もしかすると彼女の周囲では「当たり前のように皆がやっていた事」なのかも知れません。学位論文から大量の盗用文章が見つかった案件は、世界における日本で得た博士号を含む学位の価値を急落させるばかりでなく、日本のアカデミックの信用と大学の格と品位を著しく損なうことになります。個人的には、これは特定の大学の特定の学部学科の固有の事象と思いたいですが、残念ながら世間(世界)はそうは見ないと思います。

いずれにせよ、色んな方が言われている事の受け売りになってしまいますが、「学術的な部分」と「論文構成にあたっての作為的な部分と非作為的な部分それぞれが許容範囲内かどうか」の議論はきちんと切り分けて検証が必要でしょう。日本のマスコミは、ごっちゃにしてスキャンダラスに伝えていますが、マスコミのそういう追求の仕方もあまり感心しません。日本のアカデミアのかつて無い危機と思いますが、これを逆にチャンスと捉え、膿みを出し切る事が寛容かと思います。その膿を出し来るためのプロセスも出来るだけオープンにしていただければ、我々研究者達もそこから学べる事が多いはずです。マスコミによる持ち上げ方も半端じゃ無かった分、転落後の社会的制裁もきつそうに見えます。筆頭著者が自殺すると言ったような最悪の事態だけにはならないようにしてもらいたいものだと思っています。
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テーマ:雑記 - ジャンル:日記

  1. 2014/03/16(日) 12:47:47|
  2. 研究
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プロフィール

Dr Ken

Author:Dr Ken
元小児科医。ある日より、医師としてのキャリアではなく、研究者としてのキャリア・パスを志す。2007年の8月よりロンドンにある某大学医学部に講師として赴任。なかなか上達しない英語が、少し歯がゆい。万年筆と銀塩フィルムカメラが好き。縁があってやって来たこの国での貴重な体験や日々感じた事を、写真と一緒に記事にしています。

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