GRD2 ISO400 f9.0 1/2000s Kunsthistorisches Museum, Vienna, Austria
本日無事に、もう一件のMRCへの研究費の申請が終わりました。正直、しんどかったですが、写真のようにちょっと晴れ晴れとした気分です(笑)。今後の予定としては、先月にBritish Heart Foundationへ提出した研究提案を、念のためにBBSRC用に書き直して申請するつもりなのですが、こちらは研究提案の骨子はもう固まっていますし、締め切りまで2ヶ月有るので、少し時間的猶予があるので心にゆとりができました。同じ内容を複数の学術会議(Council)へは提出できないので、念を入れるとしたら今日提出したものをBHF用に書き直すのもありですが、間接経費などが付くことを考えると学術会議からの予算を獲得する方が断然に中身が良いので、しばらくこれに付いては思案しようと思います。足踏みしていた実際の研究の方を再び加速させねばなりません。
備忘録。この忙しい合間に、先週の金曜日に○阪大学小児科名誉教授のO先生がロンドンへ遊びに来られました。夕方にHeathrow空港まで車でお迎えに行き、ホテルまでお送りしました。O先生は僕が医学部の学生時代および入局した当時の小児科の教授であられ、僕の恩師です。Tay-Sachs病という病気の原因を突き止め、新生児マス・スクリーニングの方法を開発したという大変に立派な業績の持ち主でもあります。O先生はロンドンに留学に来られていた(1969年の事だそうです)ので土地勘が有り、基本的には観光案内などは不要なのですが、Readingに恩師のKings Collegeの名誉教授であられるR先生が住んでおられ、その先生を訪問するために日曜日に僕の車を出して、O先生ご夫婦とともにReadingまで半日ドライヴをしました。R先生は80を越えられるご高齢ですが、ちょっと足が不自由になっておられるもののしゃんとしていて、科学者らしく理路整然ときれいな英語を話される、知的な方でした。R先生に、家の周辺の風光明媚な場所をご案内いただき、皆で美味しいパブで昼食を頂きました。
昨日は午前中にO先生に研究室に来ていただいてラボをご案内し、昼食をご一緒しました。今日からパリにご旅行へ出かけられ、その後ご帰国との事で、無事な道中をお祈りしたいと思います。
いい機会なので、簡単に僕がどうして今のような仕事に従事するようになったのか、いきさつのお話を書きたいと思います。僕は元々小児科医だったのですが、病院で仕事をしていた時分には、一般小児科以外に未熟児・新生児の医療(NICU)の仕事や、先天性心疾患(つまり心臓の奇形)の患者さんのケアに携わる事が多かったので、自然と「どうして正しい臓器や器官の形が形作られるのか?」といういわゆる発生生物学に興味を持ちました。そこで、当時の小児科O教授に相当無理(今思えば生意気)な事をさんざん言って小児科を飛び出し(なぜなら、当時の小児科学教室で、そんな事をやっている方や方法論に通じた諸先輩は一人もいなかったので)、当時○阪大学に来られたばかりでまさに研究室を立ち上げているところで有ったH教授(その筋では超有名)主催の基礎医学の研究室の門を叩くことになりました。H教授の研究室では、特定の狭い分野(例えば心臓の発生にのみ興味があると云ったような)にとらわれる事無く、「生命活動や形態形成に普遍的な原理とは何か?」という姿勢に常に研究が貫かれていて、とても勉強になりました。臨床の教室で研究を行っていたならば、僕は凡庸なのでそのような広い視野には気づけなかったでしょう。また、その経験が、まさかの「医師よりも研究者を志す」という方針転換になるとは、当初は考えもしませんでした。ただ、臨床に戻るか、サイエンスの世界に生きるかの選択をする際には、とても葛藤しました。いまでも臨床は大好きですし、患者さんに取って良き医師でありたかったなと云う欲はもちろん有ります。何より、自分が一所懸命やって喜んでもらえるのは、やりがいが有りますからね。ただし、研究も臨床も、両方とも一流と言うのは、基本的には難しい。出来るとしたら一部の天才だけでしょうね。僕には無理と思いました。
今の研究は、そうはいっても立場も有って、狭い研究領域に特化しています(笑)。一応、標榜している研究目標は、心筋(心臓の筋肉)が胎児の中で受精卵から始まってどのように出来上がるのかをきちんと分子生物学的視点から理解することです。この理解が、先々、心筋梗塞などで心不全に陥った患者さんの心臓を再生し治療する方法論の開発の鍵になると信じています。申請している研究費は、すべてこれにまつわる研究提案です。小児科医的視点からすると心臓の形作り(心奇形)に関わる研究もしたいのですが、人手とお金とスペースが未だ足りないのと、今のポジションの立場上すぐには難しく、ぼちぼちと機が熟すれば始めたいと考えてはいます。一見すると狭い研究領域に目標を設定してはいますが、ここにも必ず生命活動に取って普遍的な仕組みが背後に潜んでいるはずです。仕事を進める上で、そのような「真理」をえぐり出す事こそ、H教授に薫陶を受けた僕たちの取るべき態度であり、そこがまた科学の醍醐味と思っています。
一見して病気の名前の出てこない研究など意味が無い、などと良く(特に若いお医者さんなどに)云われます。そういう人は、多分、イースト菌などを使った研究など、遊びと思うのでしょう。でも、それはとても偏狭で間違った視点と思います。なぜならば、生命に取って重要なメカニズムは動物種を越えて保存されているものが多く、しかも、その機構に不具合が生じれば必ず病気になるからです。研究にショウジョウバエを使おうが、生命の本質に迫ろうとする研究全てには、極論すると病気が背後に隠れていて、その病気の本質(本質が理解できれば、根本的な治療への道が開けるはずというのが西洋医学の基本態度です)に迫ろうと努力している事と同じなのですね。
臨床と違い、研究者は少し貧乏です(明日をも心配しないといけないほどでは有りませんけど、笑)。でも、じゃあ何で病院の一線で活躍する医師である事を置いてしまってまで研究の世界に魅力を感じるかというと、一つは「真理の探究」という知的欲求をとても充足してくれるからです。答えを見いだした際の興奮を味わってしまうと、もう抜け出せなくなります。また、研究の世界には国境は有りませんし、良い仕事をすれば教科書に出ている著名な先生とも対等に話が出来ます。こういうグローバルな世界を知ってしまうと、もう辞められなくなるんですね。
明日からは、毎日更新とは行きませんが、ウィーン旅行の記事を始めたいなと思います。今日の写真は、ウィーンの美術史美術館の一角です。
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テーマ:雑記 - ジャンル:日記
2011/08/31(水) 12:05:31 |
研究
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