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英国医学研究留学記

寄付に拠る研究費

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今日も肌寒い一日で、時々俄雨が降るぐずついた一日でした。

日本では、まとまった研究費と言えば税金から拠出されて配分されるものが中心です。一番間口が広いのが文科省の配分している科学研究費補助金(いわゆる科研費)、額は大きいが採択件数の少ない科学技術振興機構などが配分している競争的研究資金や、医学系なら厚労省の配分している研究費などです。民間も有るのですが、僕が生業としてきた生命科学/医学研究畑では、はっきり言って大学院生一人分の一年分の研究経費に遥かにおよばない、消耗品代金の足しにしかならない小額のものしかありません。従って、まずは科研費がもらえるのかどうかが、日本で研究者としてやって行くためには生命線と言えます。

英国では、やはり政府系の税金に基づく研究費はとても重要です。税金に拠る研究費配分は8つの学術会議が担っていて、生物系・医学系の研究費は、MRC (Medical Research Council)とBBSRC(Biotechnology and Biological Sciences Research Council)の二つが行います。政府系の研究費の獲得は、MRCの場合は新規採択率がだいたい20~25%程度。当たる確率は低いのですが、人件費も込みで額も十分ですし、日本の科研費がこれと比べて格段に採択率が良いかと言うと、そうでもないのです。日本の科研費のほうが採択件数が多くて間口は広いと思いますが、MRCの一件のプロジェクトに配分される研究費に匹敵する額の研究費をとれる人は人数が非常に限られてしまうのも、日本の残念な所です。一方で、英国では寄付金をベースにした民間の研究費も非常に潤沢で、ここが日本と違って恵まれている所でしょうか。政府系から採れなくても、十分な額の研究費を応募する間口が広いのです。Welcome Trust、Cancer Research UK, British Heart Foundationなどなど、これらのチャリティー団体から交付される寄付金由来の研究費も、だいたい少なくても日本での年間1千万程の研究費に匹敵する規模が有ります。

本日のBBCのニュースで、ちょっと興味深い報道が有りました。興味のある方は、こちらのweb siteへ。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/health/8493248.stm
英国での痴呆症の患者の総数は、当初の予想を遥かに上まわる数に上っているそうです。一方、病気の研究に費やされている研究費に目を向けると、英国に於けるチャリティー・ベースの研究費でもっとも資金が潤沢なのはCancer Researchで、痴呆症(Alzheimer Research Trust)の研究費の12倍程有りますが、実際に患者さんのケアにかかる費用は痴呆症の方が悪性腫瘍の2倍以上の費用がかかる現実を考えると、もっと研究費の確保と配分を改善するような方策を考えて、早急に原因、治療、そして予防に対する効果的な対策を講じれる様にして行かないと、先々の経済に与える影響がかなり大きいとのことです。

僕のいる研究所には、Cancer Research UKのラボがワン・フロアを占めていて、なるほど使っている道具も資金の使い方も「金が有るなあ」と一見して判るのですが、実際に資金の流れにこれほど格差があると言うことは知りませんでした。僕が所属する研究室は循環器疾患をターゲットにしているので、British HeartかMRCから予算をとる事が定番です。余談ですが、僕の場合はBritish Heart Foundationが3年以上UKに住んでいる実績のある移民にしか研究費の応募を認めていないために、今のところMRCしか間口が有りません。Heart Diseaseに対する研究費の規模は、BBCのweb siteを見ると痴呆症に対するものとあまり大きな差が有りません。欧米では心筋梗塞や心不全に拠る死亡は日本に於けるものよりも遥かに多く、かかる医療費を鑑みると悪性腫瘍の研究に匹敵するくらい問題だと思うのですが、実際に寄付金の流れは疫学的なデータやかかる医療のコストに必ずしも一致していないのですね。
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テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

  1. 2010/02/03(水) 22:38:35|
  2. 英国
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プロフィール

Dr Ken

Author:Dr Ken
元小児科医。ある日より、医師としてのキャリアではなく、研究者としてのキャリア・パスを志す。2007年の8月よりロンドンにある某大学医学部に講師として赴任。なかなか上達しない英語が、少し歯がゆい。万年筆と銀塩フィルムカメラが好き。縁があってやって来たこの国での貴重な体験や日々感じた事を、写真と一緒に記事にしています。

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