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英国医学研究留学記

日本の生命科学研究の行く末

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今日は、晴れ間が覗いたと思えば曇ったりにわか雨が降ったりと、いかにもロンドンらしい天気です。週末は、土日ともとてもよい天気で気持ちの良い週末でした。金曜日から週明けに至るまで、仕事だけじゃなくて、日本からのお客さんも相次いで、忙しくてブログの更新すらままなりませんでした。

まずは金曜日の夜に、日本にいた研究室の大学院生2名が、昨日の日曜日からエジンバラで開催される国際発生生物学会に参加するために英国にやって来ました。金曜日の夜に我が家に一晩泊まったあと、当初は2晩泊めて欲しいと言っていましたが、一日早くエジンバラ入りする事にしたため(学会の開催で、エジンバラに向かう交通手段の混雑が予想されるため)、土曜日の昼過ぎにKingscross駅からNational Railにて旅立って行きました。実り多い学会になる事をお祈りします。宿泊料としてキューピーマヨネーズを約束通り持って来てくれたため(英国のマヨネーズは味が薄くて美味しくありません。キューピーマヨネーズは日本食材店で買えますが、日本で300円も出せば買えるものが、5ポンド以上します。約千円くらいですか)、妻は大喜びでした。

この学会には、僕の元ボスが招待講演をするために招かれているので、学会ついでにロンドンに寄って行って欲しいと打診していたのですが、学会前はとある学術雑誌の編集会議で忙しく、終了後は奥様の強いご希望で欧州のロンドンではない別の町に足を伸ばすことになってらっしゃるそうで、またの機会に立ち寄ってくださるとの連絡を受けました。ちょっと残念でした。

日曜日は、ケンブリッジで開催されていた別の学会に参加されていた小児科の先輩医師K先生(といっても、この方も僕と同じく「グレて」しまってお医者さんは辞めてしまい、基礎医学の研究者になってしまったのですが)が、帰国前に是非顔を見たいと、寄って行ってくださいました。朝方、街中でピックアップしたあと、研究室をご案内して、同僚の小児科医T先生のご家族と僕の家族と合流して、K先生をヒースロー空港にお送りする前に、空港から車で20分ほどのところにある、以前にこのブログで紹介した美味しくて雰囲気の良いお気に入りのパブにちょっと遅めのお昼ごはんを食べに行きました。
http://ukresearchlife.blog17.fc2.com/blog-date-20080920.html

K先生とのお話の中身は、最近のお互いの近況や研究面で興味のある事、僕の古巣の小児科の最近の状況、昔お世話になった(もう退官されている)O小児科名誉教授の近況など多岐に渡りました。中でもひときわ花が咲いた話題が、政権交代のどさくさに麻生政権が行った最先端研究開発支援プログラムの「中心研究者及び研究課題」の決定についてでした。
http://www8.cao.go.jp/cstp/sentan/kekka.html
これは政府主導で一つの研究プロジェクトに30億円を配分する(30件の採択で総額2700億円)というもので、文科省の科学研究費補助金や科学技術振興機構の競争的研究資金(CRESTやさきがけ)とは異なり、審査過程から透明性を確保した画期的なものだと言うふれこみでした。採択課題が先日発表になったのですが、工学系など分野外のものは門外漢なので判断しかねますが、生命科学領域に関しては、正直「がっかり」しました。すでにかなり多くの研究資金が以前から投入されている研究室ばかりで新鮮みが無いだけじゃなくて、失礼ながら中には過去の業績のオリジナリティを世界的規模で考えたときに、「何でこの研究室が?」と思うものも(いや、提案された研究計画がひょっとするとすばらしいものなのかもしれませんけど、詳しい中身は見れません)。柳田充弘先生のブログに拠ると、採択課題の半数以上3分の1(9月8日、訂正)が「東京大学」なのだそうで、民主党が白紙撤回もあり得ると言っていますが、僕も「白紙にしてやり直したら?」と思った次第です。少なくとも、これだけの税金に基づく資金を一つの研究室や、共同研究としてタッグを組んだ複数の研究室に使わせるならば、1. 落選した課題について、それはどこの研究室の提案したもので、何が足らなかったから採択されなかったのか?、2. 採択された研究提案の概略(詳細は模倣される恐れがあるので、知的コンテンツの保護の観点から出せないと思いますが)と、審査の過程で何が他の採択課題よりも優れていてポジティブに捉えられて採択されたのか?の2点は、少なくとも政府は国民にきちんと説明する義務があると思います。

柳田先生もブログに書いておられますが、すでにかなり潤っている研究室が「さらに潤う」ような仕組み(ある意味、いろんなところで見ることの出来る既得権益に近い)、即ち、できあがった格差が益々大きく広がるような科学技術政策がまかり通って行くようでは、日本の科学技術に将来は無い気がします。なぜなら、今現在、あまりスポットライトを浴びていない(日の目を見ていない)分野に、金鉱が眠っているかもしれないのです。科学とはそういうものだと思います。一見、何の役に立たつのか判らない内容が、10年後、20年後に大化けしたりするのです。海外でポジションをとっている日本人の生命科学領域の研究者達は、今回のこの採択内容を見て、「日本の研究環境がすばらしいから是非に日本に帰りたい」と思う人は誰もいないと思います。少なくとも、ぼくはがっかりしましたし、英国の方が研究資金の獲得に関してずっとフェアで恵まれた環境にあると思いました。海外でも一点集中しているラボはもちろんあるのですが、日本よりも間口が広くきちんとファンドされているように見えますし、日本のような極端な研究費配分の偏りは見られません。オックスフォードやケンブリッジに大半の研究資金が集中するような事態にはなっていないのです。
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テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

  1. 2009/09/07(月) 17:00:32|
  2. 研究
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プロフィール

Dr Ken

Author:Dr Ken
元小児科医。ある日より、医師としてのキャリアではなく、研究者としてのキャリア・パスを志す。2007年の8月よりロンドンにある某大学医学部に講師として赴任。なかなか上達しない英語が、少し歯がゆい。万年筆と銀塩フィルムカメラが好き。縁があってやって来たこの国での貴重な体験や日々感じた事を、写真と一緒に記事にしています。

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