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英国医学研究留学記

新しい方法論

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今日も午後からは晴れ間が覗いて気分がいいです。日本にいるときはさして思いもしませんでしたが、太陽を見る事が出来るのは、良い事なんですね。

今日出たばかりのNatureで気になった事をいくつか。

まずはiPS細胞の事で、なんとほぼ同じ結果の報告が5報!いかに競争が激しいかを伺えます。ただ、生意気を言うようですが、重要な研究である事は判りますがもはやあまり僕個人の興味をそそるような面白い話題では無くなってしまいました。研究と言うのは、オンリー・ワンになりたかったら、はやりものには手を出さないと言うのが鉄則なので、将来道具としてiPS細胞を使うことはあっても、自分がその業界に参入する事はおそらく無いでしょう。

それよりも気になったのが、on line版でしかまだ見れない、ミトコンドリア脳筋症に対する新しい治療法の話です。厳密に言うと、既に病気を発症した人に対する治療ではなくて、ミトコンドリア病を回避する方法論の話。ミトコンドリア脳筋症とは、簡単に言うとミトコンドリアがもつDNAに異常が有って、これが原因で神経や代謝の異常を来す病気です。研修医時代に何人かの患者さんの主治医をさせていただきましたが、現在の医学では対処療法以外にはどうしてあげることも出来ません。ミトコンドリアは、受精の際に、精子の持つミトコンドリアはほぼ排除されてしまうため、我々の体が持つミトコンドリアは、ほぼすべて母親由来のミトコンドリアです。女性にとってはかわいそうな話ですが、したがって母親のミトコンドリアさえ受け継がないように出来れば、発症を防げる訳です。今回Natureに報告されている論文は、クローン技術とほぼ同じ様な手法で、健常なミトコンドリアを有する(ミトコンドリア病の家系ではない女性の)卵の核(正確には減数分裂の途中に有るのでspindle-chromosomal complex)を取り除き、これにミトコンドリア病の家系の女性の未受精卵から取った核(spindle-chromosomal complex)を移植(クローンは体細胞から採った核を移植)し、その後に配偶者の精子を受精させて発生させれば、ミトコンドリア病の家系のお母さんとその配偶者であるお父さんは、ミトコンドリア病を発症する心配の無い子供を得ることが出来る、と言う訳です。生まれてくる子供は、遺伝学的には正真正銘お父さんとお母さんの子供であるわけで、ミトコンドリアだけが家族以外に由来するのです。クローンの技術を使えば可能であろうと言う事は理論的には判っていた事だと思うのですが、今回はこの方法を猿を使って検証し、十分に安全且つ可能な方法だと言う報告をしています。先のiPS同様、学問的な目新しさはあまり無いとも言えますが、臨床への応用からはまだまだほど遠いiPSと違い、コイツはやる気になればすぐ実用になってしまう事であること、(クローンではないですが)人為的に操作された胚を発生させる事が良い事なのかどうかと言った倫理的な要素もあって、興味を引いたと言う訳です。まだon line版での発表にも関わらず、NartureはEditorialとして、この技術に拠って、今後は胚の分配、善意の胚の提供、どう有るべきかと言った議論が再び活性化するであろうとのコメントを紙面に掲載しています。ミトコンドリア病の家系で苦しんでおられたご家族にとっては、病気の心配の無い子供が得られると言うのは光明ですが、実際に医学の現場にこれが降りてくるにしても、乗り越えないと行けないハードルや問題(iPS細胞の場合は技術的な問題なのですが、こちらは是非についてや制度・社会システム上の問題)は現状ではたくさんあります。きちんとどこかで線引きをしないと、ナチズムがダーウィンの進化論を利用したように、話がすり替えられて「優良種(何をもって優良と言い得るのか、こういう議論ははなからおかしい話と思うのですが)を選別する」と言ったような危険な思想に利用されますし、そうなると恐ろしいことになりそうです。

もうひとつ、レトロトランスポゾンと言う、ゲノムの上を飛び回る遺伝子が、通常のほ乳類の細胞では飛び回ったりできないはずなのに、神経になる前駆細胞ではこれが活性化してゲノムの中をランダムに飛び回っているとの報告も目を引きました。神経発生の過程に於けるこのランダムなレトロトランスポゾンのゲノム中への挿入によって、たとえ一卵性双生児でも神経の構築においては多様性が生じるとのではないかとのディスカッションには、正直、本当かよ?と言う気持ちも無くもないですが、アイデアは面白いと思います。本当に行動や性格と言った多様性と、神経前駆体細胞中でのレトロトランスポゾンの活性化が関係あるのかどうかは、もっと研究・検証が必要です。

今日は、僕の古巣の小児科のI先生(ぼくは直接面識が無かったのですが)が、欧州の学会に参加したついでに、僕の同じ研究室に留学中の同じく小児科所属のT先生を尋ねて来てくださいました。夕方から、教授が食事に連れて行ってくださると言っていますので、便乗してついて行くことにしています(きっと何かうまい物にありつけるはず、笑)。

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  1. 2009/08/27(木) 16:47:47|
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Flu Jab

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新聞に拠れば、昨日の雪は100年に一度あるかないかの出来事であったようです。
僕の通勤にはあまり影響ありませんでしたが、交通システムはかなり混乱した模様です。

先週の木曜日に、家族全員のインフルエンザ・ワクチンをGeneral Practioner(GP; かかりつけ医)に注射してもらいました。
Flu=インフルエンザ、Jab=ワクチン、のことです。

我が家では、毎年、皆で受けています。
日本にいたときは、僕自身は昨今の小児科医不足もあって、市民病院の二次救急外来を応援でしていましたから(止めさしてもらえなかった)、流行時の自己防衛のために。
妻と子供たちは、予防出来れば少しでも流行時のウイルスの媒介源を減らすことが出来るので社会的な意味があるのと、6歳未満の小児の場合はインフルエンザ脳炎・脳症の好発年齢でこれが怖いと思うからです。
ワクチン接種がインフルエンザとそれに因る脳炎・脳症罹患に対する絶対的な防御手段ではないのですが(つまり接種していても発症することがある)、あくまで個人的な印象ですが、ワクチン接種をしておいた方が、脳炎・脳症の頻度や重症度が仮に発症した場合でも低いのではないかなと思っているからです(信じていると云ったほうが近いかも)。
ただし、ワクチンによる脳炎・脳症への予防に対する科学的に明白な証拠はまだないはずなので、これは学術的な意見と捉えられると困りますので、あらかじめ小児科としての公式な見識ではなくて、僕個人の主観・信条であるとお断りしておきます。

昨年は、主治医になってくれているGPの先生に、別件で受診の際に接種を口頭でお願いしたら、その場で直ぐに射ってくれました。
今年は、主治医の先生の外来を予約する用事がさしてないので、ワクチン接種の予約をしにGPの受付で受けたい旨を伝えた所、一般的には持病があるか高齢者でないと....と受付のおねえちゃんに少し難色を示されましたが、結局受け付けてもらいました。
あまりこの国では健康な小児に積極的に接種を医療機関側からは推奨していないのかもしれませんが、受付がどうして受ける必要があるの?必要ないんじゃない?と云っただけでGP本人に確認した訳ではないので、この国では実際に医師はどのように考えているのか解りません。
機会があったら、同じラボの英国人医師(循環器内科)に聞いてみますが、現にGPの玄関に置いてあるNHS(National Health Service)のインフルエンザ・ワクチンのパンフレットには、喘息などの持病を持つ小児と、65歳以上の高齢者への接種を推奨していて、米国小児科学会(AAP)のガイドラインとは少しずれを感じます。
AAPのガイドラインでは、端的に言ってしまうと(情報が正確じゃないとおしかりを受けそうですが)、6ヶ月児~18歳までのすべての小児、5歳未満の小児がいる家族、妊婦、そして医療従事者への予防接種が推奨されています。

それから、日本では何かと騒がれているタミフルですが、GPではよっぽどでない限り発症していても処方箋は切ってもらえないようです。
そもそもこちらの医師は、あまり薬を多く出さず、基本的には自然治癒に任せる方向で考えるのが通常のようです。
ですから、日本の様に気軽に点滴などもしないと聞きました。
日本がタミフル消費量がダントツで多いと言うのは、なるほどなと云う感じです。
もっとも、どんな病気も医師が治すのではなくて、本人の力で治癒して行くのを病気に負けない様に手助けする事しか我々には出来ないので、そう考えると一緒なんですけどね。

それから、後日機会があれば医療システムについても少し紹介しようと思っていますが、GPを介した医療は、基本的には薬局で購入する薬代を除き、すべて無料です。
こう聞くとすごく良さそうに聞こえますが、ところがどっこい、問題山積で、僕は医療サービスに関しては日本に住んでいる人の方がずっと遥かにハッピーだと思います(その理由も、いつか記事にしたいと思います)。

テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

  1. 2008/10/30(木) 08:00:00|
  2. 医学
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接種率

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昨日、ワクチンのことを書いたので、もう少しワクチンのことについて思っていた事を。
小児科時代からの友人(まさに戦友です)に、感染症の医療に情熱を傾けている小児科医がいて、彼によると先進諸国の中で日本での麻疹(はしか)ワクチン接種率は最低で先進国としては恥ずかしいレベルだとよく言っていました。
小児科サイドからは接種率を上げるべく随分前からキャンペーンを行っているにもかかわらずです。

日本人は麻疹を軽く考えがちです。
もちろん、「麻疹発症=即入院」と言う訳ではありませんが(入院が必要かどうかはケース・バイ・ケース)、麻疹はどんな感染症と比べても(熱帯のエボラ出血熱等の特殊なものは例外として、少なくとも日常的に良く見かける感染症の中で)、症状が激しく感染力が強くて、麻疹肺炎等の合併症を生じたときには死亡転帰を含めてかなり重症化する事が予想されます。
麻疹に罹患した場合の危険性をもっと深刻に受け止めるべきで、これも防げるなら防いだ方が無難と言うのが、病気の実体を知ってしまった者の正直な感想です。
日本に於いては、学校の家庭科や産後の母親向けの子育て学級等で子供への感染症に対する啓蒙に力を入れた方が良いかもしれません。

日本に住んでいたときに、子供の通う幼稚園で水痘が流行した際、我が子に感染してもらいに何人かで罹患した子の家へ行って、罹患児の使ったスプーンを我が子になめさせた母親達がいると言う話を聞いたときには(人づてに聞いた話で、真偽の裏までとっていませんが)、気絶しそうになりました。
水疱瘡なんてと軽く考えているのだと思いますが、麻疹も含め水痘・風疹(三日はしか)・流行性耳下腺炎(おたふく風邪)のなかで、もちろんこれらも発症したら直ぐに入院とはなりませんが、まったく合併症の可能性の無い安全な感染症なんてないはずです。
インターネットが普及しこれだけ情報が容易に手に入る(ある意味氾濫している)時代に、なんと言う事だと思います。
これがもし本当の話ならば、そんなことをしている人たちの責任ももちろんですが、医学専門教育を受けていない市民をこのような誤った認識のまま放置している医療行政側の責任なのかもしれません。

この写真も、King's College Medical School内の光景です。

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  1. 2008/10/03(金) 10:18:08|
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伝統


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King's CollegeのMedical School Guy's campus構内。
Guy's Hospitalは、Wikipediaによると1721年にSt Thomas' Hospitalで対処出来ない病人を扱うために設立された病院だそうです。
日本の多くの医学部と比べると建物も歴史的な厚みがありそうで、何となく荘厳な感じがします。
Guy's Hospitalに勤務していた歴史的に有名な医師は、ちょっと調べただけで
Thomas Addison→Addison病の発見
Thomas Hodgkin→Hodgkin悪性リンパ腫の発見
Sir Alexander Fleming→ペニシリンの発見(1945年のノーベル賞)
などなど、驚いてしまいました。
すごいです。
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  1. 2008/09/13(土) 07:26:54|
  2. 医学
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Victor Almon McKusick博士追悼記事に接して思う事

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たまには少しばかりアカデミックな話題を。
Victor Almon McKusick博士がこの7月22日に亡くなられたと、最新号のNatureに追悼記事が出ていました。
疑う余地無く、ヒトの遺伝病研究における巨星です。
追悼記事を読んで、僕が知らなかった事も多く、ものすごくえらい先生だったのだとあらためて認識しました。
とても僕なんかが及ぶ所ではありません。
ご冥福をお祈りしたいと思います。

ここで記事として取り上げたのは、別にご本人と面識があった訳でもなく、特別にMcKusick博士に個人的な思い入れがある訳でもないのですが、お名前から研修医のときに小児科病棟で出会った McKusick型骨幹端軟骨異形成症(metaphyseal dysplasia)であるcartilage-hair hypoplasiaという大変に稀な難病の患者様(勿論、小児科ですので子供です)の事を思い出し、ちょっと切ない気持ちになったからです。
小さいお子さんだったのでもちろん本人に病識は無かったのですが、しんどかった研修医時代にいつも明るく無邪気なその子を見て、何度も頑張らないとなという気持ちになった事を思い出しました。

この病気は、McKusick博士が1965年に最初に記載をした病気です。僕が研修医当時は原因不明でしたが、分子生物学とゲノム科学の進歩により、現在ではRMRPRという遺伝子の変異で説明がつくと言う所まで研究が進んでいますが、遺伝病全般に言える事ですが、まだまだ根治療法が見いだせる様な段階ではありません。

医師としての仕事をスタートしたばかりで、免許をとりたてのほやほやで経験の乏しい本人は「先生」と呼ばれる事に大きな違和感を感じていたあの頃、実は先輩の医師やベテラン看護師さん達からだけでなく、多くの患者である子供たちやそのご両親からも多くの事を学ばせていただき、また逆にこちらの方がエネルギーを貰っていたのだと言う事をあらためて思い出しました。
本当は医師として活躍する事が、ご恩返しなのかもしれません。
僕自身は、もう最前線の臨床医としてのステップアップを完全に止めてしまったので、そう考えると少しばかり申し訳ない気持ちもします。
研究面で成果を挙げ、基礎医学・基礎生物学の世界で生きて行く事が正しかったのだと思ってもらえる様に頑張るしかありません。
あらためてこの場で当時に出会った方々(僕と縁あって関わりのあった子供たちも無事に大きくなっていれば、すでに成人している方も多いです)に感謝申し上げたいと思います。
ありがとうございました。

テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

  1. 2008/09/08(月) 00:00:40|
  2. 医学
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プロフィール

Dr Ken

Author:Dr Ken
元小児科医。ある日より、医師としてのキャリアではなく、研究者としてのキャリア・パスを志す。2007年の8月よりロンドンにある某大学医学部に講師として赴任。なかなか上達しない英語が、少し歯がゆい。万年筆と銀塩フィルムカメラが好き。縁があってやって来たこの国での貴重な体験や日々感じた事を、写真と一緒に記事にしています。

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